2015/08/17
ECO
今年4月から、新築戸建て住宅も「長野県建築物環境エネルギー性能検討制度」の義務対象になった。県がこの制度を通して目指していることや、本来、消費者が住まい選びの際に知っておくべき、住まいの『燃費性能』と『健康性能』との関わりなどについてお伝えしてきたこの連載も残すところ2回となった。
さてこの連載の第8回で、ほとんどの先進国では新築の住宅・建築物に対して、省エネ基準への適合が義務付けられているのに対して、我が国では未だに義務化されていないことについて説明した。主な先進国の義務化の状況は、表に整理した通りだ。我が国は省エネ基準への適合が義務化されていないだけでなく、基準自体も欧米各国に比べて、非常に緩いことも以前説明した通りだ。
そのような状況を踏まえて、いよいよ我が国でも省エネ基準への適合が義務化されることになった。2020年までに戸建て住宅を含むすべての新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化することが、「日本再興戦略(平成25年6月14日)」で閣議決定されているのだ。そして段階的義務化の第一弾として、今年7月に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が成立している。この新法により、2017年度からまずは新築の大規模非住宅建築物から義務化されることになる。
省エネ基準の適合義務化について詳しい東京大学名誉教授で国立研究開発法人・建築研究所理事長の坂本雄三氏によると、戸建住宅は、2020年までに義務化されることになるが、要求される省エネ基準は、現行の省エネ基準相当になる見通しだそうだ。ただし現在の新築住宅は、半分以上が基準に適合していない状況にあるため、義務化以降に供給される新築住宅の省エネ性能の平均水準はかなり引き上げられることになるという。そして省エネ基準に適合していない住宅は、既存住宅も含めて「既存不適格」という現行の法律に適合していないという扱いになってしまうのだそうだ。
既存不適格だからといって、住み続けることにはなんの問題もないそうだが、今後の不動産売買時等には、省エネ基準適合の有無は、少なからず評価額に影響を及ぼすことになりそうだ。ほとんどの方々は、ご自分のお住まいが省エネ基準に適合しているのかどうか知らないのが現状だろう。しかし既存住宅のうち、現行の省エネ基準に適合しているのは、5%程度に留まるという推計もある。つまりほとんどの住宅は、既存不適格になってしまうのだ。国は、今後、既存の住宅・建築物の省エネ改修を促進するために、支援制度の充実を図ることにしている。省エネ・健康という観点に加えて、資産価値の維持・向上という観点からも省エネ改修工事を実施する住宅の件数が増加していくものと思われる。
なお、今回の新法に関する衆議院および参議院での審議の内容は、非常に興味深いものだった。今回成立した新法は、あくまでも「大規模」な「非住宅建築物」の「省エネ基準」への適合に関する法律であるにもかかわらず、国会での議論は、「戸建て住宅」の「断熱性能」と「健康」との関わり等に多くの時間が割かれていたのだ。議論の中では、住宅の断熱性能とヒートショックの関係などにまで踏み込んでいたのは、注目すべき点だろう。
また以前の回で、先進国の中で我が国は、樹脂サッシ等の断熱サッシの普及が遅れていることに触れた。この新法が可決された際の付帯決議に、「住宅の断熱性能向上を図るために、木製または樹脂製のサッシについて、その普及促進に向けて、諸外国の例を参考にしつつ、技術開発や基準の合理化を検討すること」という趣旨の項目があることも併せて注目すべき点だ。今回の国会での議論は、今後の我が国の住宅が大きく変わりつつあることを予感させる内容だった。
さて最終回の次回は、省エネ性能が資産価値評価に影響する時代が到来しつつあることについて説明したい。
長野県-北信・東信で自然エネルギー利用パッシブハウス、W断熱-Q1.0省エネ・低燃費住宅の新築、リフォーム 山本建設株式会社
2015/08/17
ECO
エネパスコラム第20回
今年4月から、新築戸建て住宅も「長野県建築物環境エネルギー性能検討制度」の義務対象になった。県がこの制度を通して目指していることや、本来、消費者が住まい選びの際に知っておくべき、住まいの『燃費性能』と『健康性能』との関わりなどについてお伝えしてきたこの連載も残すところ2回となった。
さてこの連載の第8回で、ほとんどの先進国では新築の住宅・建築物に対して、省エネ基準への適合が義務付けられているのに対して、我が国では未だに義務化されていないことについて説明した。主な先進国の義務化の状況は、表に整理した通りだ。我が国は省エネ基準への適合が義務化されていないだけでなく、基準自体も欧米各国に比べて、非常に緩いことも以前説明した通りだ。
そのような状況を踏まえて、いよいよ我が国でも省エネ基準への適合が義務化されることになった。2020年までに戸建て住宅を含むすべての新築住宅・建築物について段階的に省エネ基準への適合を義務化することが、「日本再興戦略(平成25年6月14日)」で閣議決定されているのだ。そして段階的義務化の第一弾として、今年7月に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が成立している。この新法により、2017年度からまずは新築の大規模非住宅建築物から義務化されることになる。
省エネ基準の適合義務化について詳しい東京大学名誉教授で国立研究開発法人・建築研究所理事長の坂本雄三氏によると、戸建住宅は、2020年までに義務化されることになるが、要求される省エネ基準は、現行の省エネ基準相当になる見通しだそうだ。ただし現在の新築住宅は、半分以上が基準に適合していない状況にあるため、義務化以降に供給される新築住宅の省エネ性能の平均水準はかなり引き上げられることになるという。そして省エネ基準に適合していない住宅は、既存住宅も含めて「既存不適格」という現行の法律に適合していないという扱いになってしまうのだそうだ。
既存不適格だからといって、住み続けることにはなんの問題もないそうだが、今後の不動産売買時等には、省エネ基準適合の有無は、少なからず評価額に影響を及ぼすことになりそうだ。ほとんどの方々は、ご自分のお住まいが省エネ基準に適合しているのかどうか知らないのが現状だろう。しかし既存住宅のうち、現行の省エネ基準に適合しているのは、5%程度に留まるという推計もある。つまりほとんどの住宅は、既存不適格になってしまうのだ。国は、今後、既存の住宅・建築物の省エネ改修を促進するために、支援制度の充実を図ることにしている。省エネ・健康という観点に加えて、資産価値の維持・向上という観点からも省エネ改修工事を実施する住宅の件数が増加していくものと思われる。
なお、今回の新法に関する衆議院および参議院での審議の内容は、非常に興味深いものだった。今回成立した新法は、あくまでも「大規模」な「非住宅建築物」の「省エネ基準」への適合に関する法律であるにもかかわらず、国会での議論は、「戸建て住宅」の「断熱性能」と「健康」との関わり等に多くの時間が割かれていたのだ。議論の中では、住宅の断熱性能とヒートショックの関係などにまで踏み込んでいたのは、注目すべき点だろう。
また以前の回で、先進国の中で我が国は、樹脂サッシ等の断熱サッシの普及が遅れていることに触れた。この新法が可決された際の付帯決議に、「住宅の断熱性能向上を図るために、木製または樹脂製のサッシについて、その普及促進に向けて、諸外国の例を参考にしつつ、技術開発や基準の合理化を検討すること」という趣旨の項目があることも併せて注目すべき点だ。今回の国会での議論は、今後の我が国の住宅が大きく変わりつつあることを予感させる内容だった。
さて最終回の次回は、省エネ性能が資産価値評価に影響する時代が到来しつつあることについて説明したい。
長野県-北信・東信で自然エネルギー利用パッシブハウス、W断熱-Q1.0省エネ・低燃費住宅の新築、リフォーム 山本建設株式会社